歯と爪
猛獣が支配する未開の地では、それらの動物に出くわさざるを得ない地方の人々は、たくさんの伝説や迷信を誕生させたそれらの動物たちに、恐れと敬意を募らせている。虎やライオン、ヒョウ、熊、オオカミたちが自由に歩き回る場所では、彼らの力強い武器、歯や爪は、隣人たる人間の羨望の的である。動物たちの生まれながらの殺戮道具に比べたら、人間の歯や爪のいかに弱々しいことか。
猛獣の死後、その歯と爪は力強のお守りとなる。それらは、身につける人間の持ち主によって、すばらしい動物の力をいくらかでも得たいと、敬意を払われ、大切にされる。金や銀の台にはめ込まれ、首のまわりに飾られた熊の歯や虎の爪は、獣たちの過去の力をとどめる遺物であるばかりでなく、偉大な獣は死んだ、しかし人間はまだ生きている !という勝利のしるしにほかならない。
歯や爪のお守りは、多くの文化の装飾品の中に見出される。ほとんど常に、身につける者の肉体的な強さを魔術的に増加させると信じられている。いくつかの例では特別な御利益もある。ある地域では、熊の爪のお守りは女性が出産するときにご利益があるとされている。ほかの場所では、幼い子供にオオカミの歯のお守りを持たせ、恐怖と歯痛から守ってもらう。モンテカルロなどのカジノ都市では、金にはめ込まれた虎の爪や歯は、ギャンブラーたちにとって特別にご利益があるお守りとされている。中国でも同じようにされているが、ここでは虎はギャンブラーの神とされている。
特別の種類の牙は、時に普通のお守りとしても利用されるが、ほかのお守りの増幅器としても使われる。力のあるお守りに常に小さな牙をかけておくと、なお一層その力が増えると信じられていた。定義するならば、牙は、象、セイウチ、イボイノシシ、いろいろな種類の野生のブタやある種のシカなどの、動物の口から突き出した大きな歯である。お守りとして使用できる牙は、もちろん大きくあってはならないが、セイウチや象の牙の最も小さいものは、この限りではない。実際には、もっとも一般的にお守りとして使われたのは、豚の一族からとられたものだった。
北スカンジナビアのサーミ族やラバ族の人々の間では、茶色の熊は神聖な動物と考えられ、名誉と尊敬を集めていた。この熊が狩られた場合、その肉は、特別な儀式である集会においてのみ食べられ、その骨は、生きているような姿勢で、儀式に従って埋められた。これは、殺害された 熊が魔術的な力で再生してこれるようにである。熊の爪のお守りを身につけるということは、、ペンダントを身につけるものへ、偉大なる動物の力と勇気を呼び出し、与えるための祈りであった。
牙の形をしたエルトリアのお守り、玄武岩を彫ったもので、金の装飾が施してある。
動物の鋭い爪は、動物自身の力をもつとされるので、価値あるお守りとなる。
